QRコードを生み出した技術者、原昌宏。ヒントは囲碁だった |
【2021年8月14日(土) ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人」より】 <もとは製造現場の部品管理が主な目的だったと、開発を主導したデンソーウェーブの主席技師は言う。その創意工夫は今も続いている> ※8月10日/17日号(8月3日発売)は「世界が尊敬する日本人100」特集。BLACK、竹内まりや、猪子寿之、松山英樹、東信、岩崎明子、ヒカル・ナカムラ、阿古智子......。免疫学者からユーチューバーまで、コロナ禍に負けず輝きを放つ日本の天才・異才・奇才100人を取り上げています。今やQRコードを見掛けない日はない。「東京駅からうちの会社までの間、いくつ使われているか社員が数えようとしたら、多過ぎて挫折した」と、愛知県のメーカー、デンソーウェーブの主席技師で開発を主導した原昌宏は笑う。もともとは製造現場の部品管理を主な目的に1994年に開発。昼休みの囲碁をヒントに、縦横の2方向を使うことでバーコードより多い情報量を入れ込むことに成功した。こうした複雑な情報を素早く読み取るカギが、3つの隅にある特徴的な四角形だ。「不器用で一つのものに凝る」性格だという原。この四角形を編み出すため、世界中の文字やマークを地道に調べ上げ、それらにはない特徴を抽出した。「回」の字に似たこの「切り出しシンボル」を配置することで、読み取り装置が上下左右どの方向からでも簡単にQRコードを認識できるようになった。当時既にライバル技術は存在していたが、こうした工夫で「使う人の立場に立った、読みやすいコード」となったことが普及の決め手ではないかと原は語る。特許を開放したことで、QRコードは携帯電話のカメラを使ってウェブサイトを読み込む手段として広まった。特にスマホの普及以降は世界中で浸透し、電子決済の手段として中国などで爆発的に普及。コロナ禍以降は感染源の追跡、ワクチン接種証明にも各国で使われ、その価値が改めて見直されている。子供の頃から電子工作などものづくりが好きで、早くから技術者を志していたという原は今も新しい技術の開発に余念がない。これまでセキュリテイ機能を強化し電子チケットに利用される「SQRC」など、さまざまな種類のQRコードを生み出してきた。将来的には文字情報だけでなく、映像や画像を含む電子カルテのようなデータも格納できる改良版の開発も検討している。根っからの新しもの好きでもある原の発明が、再び世界を席巻する日が来るかもしれない。
Masahiro Hara 原 昌宏 ●技術者(デンソーウェーブ主席技師)
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