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AIに負けない「武器」としての「デザイン思考」
【2021年8月16日(月) 東洋経済オンライン
センスやスキルなど「感覚的資産」を数値化する特許技術を生みだした起業家がこのたび、初の著書となる『破壊的イノベーションの起こし方』を上梓した。入山章栄、一條和生、山本康正、松尾豊、竹中平蔵のそうそうたる各氏も薦める本書より、AIに代替されない人材になるための武器としてのデザイン思考の重要性について、抜粋・編集してお届けする。

■あなたはどのタイプか? 

 今回は、AI時代にこそデザイン思考が必要となる理由について、説明したい。説明のために、人のタイプを2つの軸で分けよう。1つ目の軸は、ニーズ創造的か、ニーズ従属的かの軸である。ニーズ創造的なタイプというのは、自らニーズ(課題)を発見できる人のことで、ニーズ従属的なタイプとは、外からニーズを明示してもらえないと動けないタイプの人を指す。2つ目の軸は、ソリューション創造的か、ソリューション従属的か、の軸である。ソリューション創造的なタイプというのは、自らソリューション(解決法)を発見できる人のことで、ソリューション従属的なタイプとは、外からソリューションを明示してもらえないと動けないタイプの人を指す。これらの軸で人のタイプを分けると4つのタイプに分かれるが、AI時代に求められる人物像を理解するために、そのうちの次の3つのタイプについて特に注目したい。

タイプ@:課題と解決法が与えられた状態で実行できる人
(ニーズ従属的、ソリューション従属的なタイプ)
タイプA:与えられた課題を自らの力で解決できる人
(ニーズ従属的、ソリューション創造的なタイプ)
タイプB:自ら取り組むべき課題を見つけ解決できる人
(ニーズ創造的、ソリューション創造的なタイプ)

 @のタイプは、ニーズ(課題)とそのソリューション(解決法)が与えられた状態で、それを正確に再現、実行できる人であり、いわゆる「受験勉強が得意な人」が該当する。

タイプ@に該当する人=受験勉強が得意な人
 なぜなら、受験勉強においては、課題(設問)?と、その解き方を教えられ(与えられ)、練習問題に繰り返し取り組むことで課題と解決策の紐づけトレーニングをし、試験当日にきっちりその紐づけを実行できれば、良い点をとって合格できるからだ。ところが、社会に出るとAのタイプの能力も求められる。?課題やニーズが与えられた中で、それを実現するためのベストソリューションを自分で見つけ、実行できる人である。これはいわゆる、「仕事ができる人」と言われる人だ。

タイプAに該当する人=仕事ができる人
 仕事の現場では、上司が課題と解決策まですべて提示してくれることはない。上司から「こういうことをやりたい」というニーズだけを伝えられたとき、そのやり方は自ら考え、効率的に実行できなければならない。やり方まで指示されないと動けないとか、非効率的なやり方ばかりしているということでは、たちまち「仕事のできない人」というレッテルを貼られるだろう。受験勉強ができる、すなわち高学歴だからといって仕事ができるわけではない、と言われるのは、まさに@とAの能力に差分が存在するからである。

■AIに代替されるタイプの人とは

 ところが、AIが発達すると、@やAのタイプの人がこなす仕事の領域は、AIによって代替されていってしまう。@の領域は、仕事で言えば、いわゆる「単純作業」の領域であり、究極的には、AIを使わなくとも単純なルールベースのシステムでも自動化できてしまう。現在、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という名で業務効率化が行われているのは、多くの場合はこの領域である。一方、AIという最先端技術が大きな変革を起こそうと取り組んでいるのは、主にAの領域である。この領域は、これまで「仕事のできる人」の専門領域だったが、ここがAIによって代替されようとしている。この点について深く理解するためには、?現時点で?「AIにできること」「AIにできないこと」を、その特性から理解する必要がある。AIが得意な分野、それは「最終的な目的(ニーズ)が与えられた中で、そこに至るまでの最適なプロセス(ソリューション)を膨大な組み合わせの中から探索すること」である。AIが囲碁や将棋で人間のプロたちに勝ってしまう現実が、それを如実に表している。すなわち、これらのゲームにおいては、「こうなったら勝ちです(将棋であれば相手の「王」を取れば勝ち)という最終目的」が与えられている。その目的に向けてどの駒をどういう順序で動かしていけば目的を達成できるのか、AIは膨大な計算を行う。この計算プロセスは、もはや人間が勝てる余地がない。人間がせいぜい数十パターンを頭の中で計算しているうちに、AIは数億通りのパターンを模索し、その中からベストソリューションを導き出すからである。Aの領域については、人間は今後、さまざまな分野においてAIに太刀打ちできなくなる。

■人間が得意で、AIにできないこと

 では、「AIにできないこと」とは何だろう。AIは目的やニーズを自ら創造することができない、というのがそれである。その理由は、「AIには共感力がないから」である。人間と違い、AIは人間に共感できないため、ユーザーの課題やニーズを発見できない。これは、本書で述べるような、デザイン思考のプロセスを見れば明らかである。?言い換えるとAIはデザイン思考ができないとも言える。本書にもあるように、デザイン思考は共感から始まる。デザイン思考は、創造的問題解決のための思考法であり、最初から解くべき問題が用意されているわけではない。問題は、自分で定義しなくてはならない。そこで重要なのが、共感力である。ペルソナとシーンを解像度高くイメージし、ペルソナの気持ちになりきる。そして深く共感することで初めて、潜在ニーズに気づくことができる。その具体的なやり方は、本書で述べていくとおりだ。以上から、AIに代替されない人材とは「デザイン思考力を持つ人材」ということになる。上の分類で言えば、Bのタイプ、つまり自らニーズを発見し、ソリューションを生み出せる人材である。今後、AIに代替されないためにも、ぜひ皆さんには本書を活用し、「デザイン思考力」を身につけていただきたい。


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