ファンに愛された「平田碁会所」 75年の歴史に幕 7人のプロ輩出 |
【2021年11月1日(月) 毎日新聞】 75年にわたってファンに愛されてきた埼玉県蕨市中央の囲碁クラブ「平田碁会所」が、10月いっぱいで営業を終えた。JR蕨駅西口再開発に伴い、2代目経営者の平田信子さん(86)が幕引きを決めた。「これまで来てもらった人たちに本当に感謝しています」と平田さん。常連客からは惜しむ声が聞かれた。碁会所は1946年、終戦直後の焼け跡と田んぼが広がる蕨駅の線路沿いに平田さんの父親が開設した。碁盤40面の80席。東京都内や横浜から訪れる愛好家もいて、壁には7段を筆頭に高段者の名札がずらりと並ぶ。毎日新聞社主催のアマチュア本因坊戦県大会の会場にも使われたこの場所からは、7人のプロ棋士が巣立っていった。娯楽が少なかった時代。たばこの煙でかすむ室内はいつも満席だった。囲碁人口が減少し始めた80年代を乗り越え、20年前には漫画「ヒカルの碁」のブームで多くの子どもや初心者が集まった。新型コロナウイルスの影響で客足が落ち、緊急事態宣言で2カ月間の休業。それでも常連客は再開後に戻ってきてくれた。戦後とともに歩んだ道のりに浮き沈みはあったが、「続けてこられたのはみなさんのおかげ」と平田さんは話す。「自分の家庭の話や悩みごとを相談してくる人もいた。奥さんに言えないようなことまで。碁を打ちに来てるのにね。お客さんは家族みたいなものでした」。営業最終日にはプロ棋士も訪れて席は瞬く間に埋まった。「残念だが母の年齢と体調を考えると続けるのは難しい。ご苦労さまと言いたい」と碁会所を手伝ってきた平田さんの長女、加藤祐子さん(57)。15年通い詰めた同県川口市に住む個人タクシー運転手の蟹一郎さん(71)は「碁は下手の横好きだが、ストレスを解消して、さあ仕事という場所だった。なくなるのはさみしい」と惜しんだ。【鈴木篤志】
| |