囲碁界の転換点だった碁聖戦 就位式で井山裕太4冠明かす |
【2021年11月9日(火) オーヴォ】 囲碁の井山裕太4冠の第46期碁聖就位式が11月2日、東京都内のホテルで行われた。一力遼を3勝2敗で破って4期ぶり7度目の碁聖を獲得した井山は、第5局(8月29日)終了の時点で棋聖、名人、本因坊と合わせ4冠となった。この就位式の2日後からは、再び一力との名人戦第7局(最終局)に臨み、名人位も守っている。碁聖就位式で井山は意外な告白をした。2018年の碁聖戦が、新たな自分をつくり出すための転換点になったと示唆したのだ。前回、碁聖戦に臨んだ第43期は7冠を保持していた全盛時代。ところが、予想に反して許家元7段(当時)に3連敗して6冠になった。この敗戦のあたりから「1日制の対局での成績が思うようにいかなくなった」と迷いが始まった。2度の7冠独占を達成した2016年から18年にかけて囲碁は井山の1強だったが、碁聖戦に敗れた後はそれまでの圧倒的な強さから、敗戦も目立ち始めた。タイトルも少しずつ失い21年は3冠で迎えたほど。ただ、この間、課題を見つけては一つ一つ克服していき、そして今回、きっかけになった碁聖戦を再び制した。「課題克服を今、形にすることができ喜びを感じている」。碁聖のタイトルが印象深いものになった理由を話した。
ここ数年で最もいい状態
井山は最近、スポーツ心理学の専門家の元で「メンタルの強化」に励んでいる。囲碁の対局とスポーツは、相通ずるところがあるという。具体的には、序盤に時間を割くなど意識的な時間配分を心掛けているそうだ。「これで好結果が得られることが多く、手応えをつかんでいる。碁聖戦で結果も出た。ここ数年では最もいい状態にある。フルセット(最終局にもつれ込むこと)にも慣れてきた」という。囲碁とスポーツとの親和性を強調した井山に、この夏の東京五輪の感想を問うと、勝った選手よりも「負けた選手の苦しさ」に、より思いが至ったという。次々にタイトル戦をこなす自分と比べると、五輪で敗れた選手は雪辱の機会が4年後になる。この時間の長さを考えると「分かっていても胸に迫る」という。スポーツはよくテレビ観戦するそうで、最近の米大リーグの大谷翔平(エンゼルス)の活躍には「次元が違う感じ。無理だと思うことを実現するのはすごい」と感心する。
今後は世界も視野に
碁聖戦は全国の新聞社13社で構成する新聞囲碁連盟が主催。就位式では連盟を代表して山陽新聞の松田正己社長が「若手の台頭で活況を呈している囲碁界で、中心にいるのが井山碁聖。全国のファンに囲碁の魅力を伝えてほしい」とあいさつし、今後のさらなる活躍を期待した。允許状(いんきょじょう)を授与した日本棋院の小林覚理事長は、コロナ禍で活動が停滞した時期に井山がネット上で若手を集めて大会を開き、自分も参加して優勝したエピソードを紹介。「井山さんは囲碁の普及活動に積極的に協力してくれるが、勝負となれば若手だろうが手を抜かない」と、笑いを誘いながらたたえた。2021年のレジャー白書(日本生産性本部)によると、囲碁の愛好者は180万人、将棋は530万人という。将棋には藤井聡太という大スターがいて、囲碁よりも注目度は高い。ただ、囲碁は中国を中心に4,000万人の愛好者が世界中にいる。井山は「日本だけでなく今後は世界の流れも見ていきたい」と宣言し、世界の舞台も視野に入れている。
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