どうなる囲碁界の天下のゆくえ 井山裕太の再統一か、さらなる流動化か |
【2021年12月21日(火) 朝日新聞(大出公二)】 今年の囲碁七大タイトル戦を締めくくる師走の天元戦、王座戦が相次いで決着した。関航太郎が天元奪取でプロ入り最速のタイトルホルダーとなり、井山裕太は王座奪還で五冠に復帰した。その影でポスト井山を争う一力遼、芝野虎丸は無冠に。囲碁界は流動化が加速しているのか、はたまた井山の天下再統一に向かっているのか。両タイトル戦とも11月までに決着がつかず、天元戦は12月6日、淡路島で第4局が打たれた。ここまで挑戦者の関が2勝1敗とリード。タイトル奪取まであと1勝に迫っていた。黒番の関が度胸よく大模様を張り、一力は模様が地と化す直前のタイミングで単騎突入。根こそぎ荒らしにいった一力の白石を、関は殺しにいく。白は黒模様の一角を分断し、取るか取られるか、難解な大攻め合いの様相となった。一力の106手目。一手もゆるがせにできない局面で放心の失着が出た。黒の腹中で暴れまわった白の大石は全滅。一瞬で勝負が決まった。「信じられないポカ」。一力は局後の取材に失着の胸中を明かした。別のコースを考えていたのに、手がそこに向かわなかった。「こんなミスをしているようではダメ」。昨年碁聖と天元を獲得し、今年は打倒井山に照準を定めていた。碁聖戦、名人戦の対井山十二番勝負は、いずれもフルセットまでもつれ込みながら敗退。番勝負で初めて年下を迎えた天元戦も落とし、終わってみれば無冠に。「またゼロからやり直すしかない」。年明けの棋聖戦で井山との再戦に臨む。関は七大タイトル初挑戦で大殊勲を挙げた。他棋戦はパッとしなかったが、天元戦は初の本戦入りを遂げるや大ブレーク。一気に史上最速、プロ入り4年8カ月の七大タイトルホルダーになった。「自分より明らかにすごい先生に、こんな結果を迎えられるとは。自分自身、驚いてます」。結果がフロックでないことは、内容が証明している。シリーズを通して押しており、「井山VS.令和三羽ガラス」の天下取りレースに新風を吹き込んだ。「先生方には遠く及ばない。覚悟はあまりないですけど、当たる機会が増えればがんばっていきたい」。天元交代劇の3日後、甲府市で王座戦第5局が打たれ、こちらは井山が一昨年5連覇を阻まれた芝野にリベンジを果たした。3年前の七冠独占崩壊から、一時三冠まで後退したが、今年は二冠を加え五冠に復帰。測りかねていたAIとの距離感をつかみ、ニュー井山としてV字回復を遂げた。「若手の台頭もあってタイトルを戻していくのはたいへんだと思っていた。まだまだやれるというところは示せた」。かたや年初の十段、王座の二冠から、一力と同じく無冠に転落した芝野は「タイトルの数は気にならない。また新しい気持ちでがんばりたい」。三つの番勝負すべてをフルセットまで戦い、本因坊戦では10連覇をねらう井山に3勝1敗と肉薄した。昨年の井山との名人戦と本因坊戦はいずれも1勝4敗と圧倒され、本人も不調を認めていたが、上げ潮で壁にぶつかった一力に対し、芝野は復調の兆しが見えてきた観がある。年初には誰も予想できなかったであろう芝野、一力の無冠転落と、関の初戴冠(たいかん)。来年はどうなるか。
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