(回顧2021)囲碁 井山裕太五冠、粘って天下再び 芝野虎丸・一力遼から奪取 新星・関航太郎が殊勲 |
【2021年12月27日(月) 朝日新聞(大出公二)】 昨年末の当欄「回顧2020」で「囲碁界はさながら三国志の様相を見せている」と書いた。七大タイトルを分け合っていた井山裕太、芝野虎丸、一力遼が、今年も予想どおり覇権を争ったが、終わってみれば井山の一人勝ち。二冠を加え五冠になり、芝野と一力は無冠に転落した。第一人者の巻き返しが際だった。今年の三国志最初の会戦は、5〜7月の本因坊戦の井山VS.芝野。昨年の本因坊戦と名人戦で井山に圧倒された芝野は、連続挑戦を果たすも、直前の十段戦で許家元に敗れ失冠。勢いはむしろ井山にありと見られていた。ところが芝野は第2局から圧倒的な内容で3連勝し、一気に井山をカド番に追い詰めた。過去の七番勝負で井山が1勝3敗から逆転したケースはない。趙治勲に並ぶ本因坊10連覇に暗雲が立ちこめたが、第5局から3連勝して劇的な逆転防衛を遂げた。続く碁聖戦からは、芝野に代わって一力が井山に相対した。一力は名人戦でリーグ全勝優勝し、初の挑戦権を獲得。碁聖戦と合わせて対井山十二番勝負に臨んだ。井山との番勝負7回目にして初めて井山を挑戦者に迎えた碁聖戦は、タイトル防衛まであと1勝と迫ったが、その後連敗して失冠。続く名人戦でも王手をかけたがまたも連敗し、打倒井山はならなかった。井山は本因坊戦、碁聖戦、名人戦の3棋戦ですべてカド番に立たされ、すべてしのいだ。続く王座戦で一昨年5連覇を阻まれた芝野に挑戦。これもフルセットの末に下してタイトルを奪取した。今年の囲碁界の回転軸となった井山VS.芝野・一力の番勝負は、4戦して井山全勝。驚異的な粘りで後進に天下を譲らず、再び「井山1強」の地歩を固めた。世界戦でも11月の日中韓勝ち抜き団体戦、農心辛ラーメン杯で、日本勢初の4人抜きを果たした。止まらぬ勢いに「七冠独占時より強い」といわれる。井山を追い続けた一力が、初めて年下を番勝負に迎えた天元戦で敗れたのは衝撃的だった。ジャイアントキリング(大物食い)をやってのけたのは関航太郎。昨年の新人王だが、ほかにこれといった実績がなく、一力有利と見られていた。しかし終始押しまくり、プロ入り最速の4年8カ月で七大タイトルホルダーとなった。令和三羽ガラスより若い新星の誕生だ。女性棋士は今年も躍進。謝依旻は名人戦最終予選決勝まで進み、藤沢里菜は十段戦本戦で女性初の8強入りを遂げた。上野愛咲美は若手棋戦の若鯉戦で昨年の藤沢に続く優勝を遂げ、新人王戦でも準優勝した。
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