「国際戦の勝利が自信」で五冠に 囲碁・井山裕太王座 |
【2022年1月1日(土) 日本経済新聞】 あけましておめでとうございます。昨年は出場した番勝負すべてでタイトルを獲得し、五冠で新年を迎えられました。棋聖を除く4つ、本因坊、碁聖、名人、王座はフルセットの戦いでした。苦しい内容の碁もありましたが、なんとか踏ん張れました。本因坊戦は芝野さん(虎丸九段)を挑戦者に迎えて1勝3敗のカド番になり、さすがに防衛は厳しいかもと感じました。後がなくなった第4局の翌日、甲級リーグ(中国国内の団体リーグ戦最高峰)に助っ人で初出場し、最もタフな状況で(トップ級棋士の)謝科さん(九段)にネット対局で勝てた。気持ちも前向きになり、3連勝で本因坊を10連覇できました。碁聖戦、名人戦は一力さん(遼九段)との勝負に。技術は高いし、盤越しに勝負への思いが伝わってくる大変な相手です。王座戦の挑戦者決定戦も同カードで、直前の名人戦第3局では途中優勢になりながら、手堅く打って逆転負けしました。そんな負け方は二度としたくないと王座戦に臨み、思うような碁が打てた。悪い流れを断ち切れたと思います。五番勝負では芝野さんに挑む立場で、第1局では中央で相手の要石を制して大きなポイントを挙げたと思いました。しかし、芝野さんはそこで折れずにひたひたと差を縮めてくる。結果は勝ちでしたが、芝野さんの強さを感じました。またしてもフルセットで迎えた第5局(黒番)が会心の譜です。じつは対局前、昨年4回目のフルセットで「そろそろ負ける頃かな」との不安もよぎってました。対局では白の芝野さんは上辺から右辺にかけて模様を築いています。黒からはAと白模様を消しに行く手や、Bのオシの好点が考えられますが、私は戦いの中で局面を動かしていく手を選びました。黒1は相手の受け方をうかがう手。現時点では白2でしょう。そこから上辺黒5とツケて仕掛けました。19まで黒も分断された格好ですが、左上の白の一団も弱いので一方的には攻められません。この後、中央左上の黒4子を中心に戦いが発展すれば、自然と白の模様も消えるでしょう。終盤、形勢はとても細かく、きわめて難しいヨセ勝負になりました。中央の黒の大石が攻められましたが、白地に侵入しつつ生きることができ、王座を奪還できました。王座戦第4局の直前には、日本・中国・韓国の勝ち抜き団体戦、農心辛ラーメン杯の第2ラウンドのネット対局で4連勝しました。中国の范廷ト(はん・ていぎょく)九段、韓国の申旻凵iシン・ミンジュン)九段らトップ棋士を相手にここまで戦えたのは自分でも驚きで、間違いなく昨年のハイライトの1つです。30代に入って心や体の調子も意識するようになりました。3年ほど前に始めたメンタルトレーニングも徐々に成果が出てきた。今年も国内外の棋戦に臨みますが、どんな舞台でも一手一手の積み重ねに変わりはありません。気持ちを新たに実力を高めていきたいです。
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