囲碁で女性棋士台頭 AIや世界戦が刺激に |
【2022年2月1日(火) 日本経済新聞(北村光)】 囲碁の女性棋士の活躍がめざましい。男女で競う七大タイトル戦の本戦8強入りや年間最多勝など、初の記録が相次ぐ。人工知能(AI)の活用や世界戦という目標が刺激になっている。藤沢里菜女流本因坊(23)は女流タイトル四冠を持つ女性棋士の筆頭格だ。2019年の天元戦では、7つあるタイトル棋戦(王座、棋聖、名人、本因坊、天元、碁聖、十段)の本戦で女性として初の白星を挙げて16強に入った。若手棋戦の広島アルミ杯・若鯉戦では20年、公式戦の男女混合棋戦で女性初優勝を果たした。21年の十段戦では若手男性棋士のホープ、一力遼九段(24)を最終予選決勝で破って本戦トーナメントに進出。本戦2回戦では孫普iそん・まこと)七段(25)を破ってベスト8に入り、自身が持つ七大棋戦本戦の女性最高成績を更新した。先月27日に打たれた天元戦本戦1回戦でも、趙治勲名誉名人(65)を破り16強に進出した。「誰が相手でも勝つ気持ちで対局に臨んでいる」と話す藤沢女流本因坊の目標は棋聖戦Sリーグ、名人戦リーグ、本因坊戦リーグの「三大リーグ」入りだ。将棋界では男女不問の「棋士」と女性のみの「女流棋士」が別のプロ制度として存在し、四段昇段を果たして「棋士」になった女性はまだいない。一方の囲碁界では女性対象の採用試験はあるが、プロ入り後は男性と同じ扱いを受ける。女性のみが参加資格を持つ女流棋戦に加え、一般棋戦では男性としのぎを削る。現在では国内に500人近くいる囲碁棋士のうち、2割にあたる約100人が女性だ。それでも、七大タイトルの予選を突破し本戦入りした女性はこれまで12人だけ。97年の新人王戦で女性として初めて決勝戦に進出した青木喜久代八段(53)は「以前は男性棋士に勝利するだけで大騒ぎになった。男女の実力が対等とは誰も思っていなかった」と振り返る。いまでは女性棋士が三大リーグ在籍経験を持つ実力者に勝つことも決して珍しくない。急速に力をつけている理由の一つが、AIの普及で研究会に能動的に参加しやすくなったことだ。青木八段は「私が若手の頃は、実力差もあり女性は気軽に意見を言いづらかった。いまはAIを使いこなす若手の意見は、男女問わず重宝される」と説明する。昨年、広島アルミ杯・若鯉戦で優勝し、女性史上初の年間最多勝(54勝25敗)に輝いた上野愛咲美(あさみ)女流棋聖(20)も、「AIを取り入れたおかげで、議論に入りやすくなった。トップ棋士の感覚を聞けるのはプラスになる」と話す。良きライバルの存在も大きい。昨年は鈴木歩七段(38)が王座戦本戦トーナメント入りまで、謝依旻(シェイ・イミン)七段(32)が名人戦リーグ入りまで、それぞれあと1勝に迫った。「里菜先生を含め、先輩棋士の活躍を見ていると、女性でも三大リーグ入りは遠くないと思える。自分ももっとがんばりたい」(上野女流棋聖)。さらに下の世代には史上最年少プロの仲邑菫(なかむら・すみれ)二段(12)がいる。仲邑二段のため設けられた「英才特別採用推薦棋士」は、中国や韓国に対抗する棋士を若いころから育てる制度だ。「菫ちゃんはこの2、3年で急成長している。性別に関係なく棋士としての逸材だ」(藤沢女流本因坊)。世界の男女混合棋戦を見据える棋士の存在が刺激になっている。藤沢女流本因坊も上野女流棋聖も、世界戦での活躍を目指していると口をそろえる。日本棋院理事長の小林覚九段(62)は「高いハードルが見える分、これまでより勉強量がはるかに多い」とたたえる。七大タイトルの挑戦手合に女性が出場する日は、そう遠くないかもしれない。
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