大好きな囲碁 部活になくて |
【2022年2月27日(日) 読売新聞オンライン】 受験シーズンまっただ中です。新しい学校生活に期待を膨らませ、追い込みの勉強に励む人も多いでしょう。今回は、入学後に想像とは違う状況に直面した高校生のことを紹介します。「娘はショックでふさぎ込んでしまいました」。大阪市内の女性(49)から社会部に相談があったのは、昨年7月のことでした。高校1年の長女(16)は4歳から囲碁を始め、中学1年の時には大阪府の大会で優勝したこともあるほどの腕前です。しかし、入学した高校には囲碁部がありません。個人で大会に出ればいいと考えていたのですが、学校側の承認が必要なことを入学してから知りました。その承認が下りないというのです。この学校では、中学時代の活動実績を入試で加点する制度を設けていて、長女は囲碁での活躍が評価されました。それだけに大会への出場が認められないのは、納得がいかなかったそうです。囲碁には主な全国大会が年3回あり、地域ごとに予選が行われます。大阪府高等学校囲碁連盟によると、大会は教育の一環として開催されており、生徒は学校を代表する立場のため、出場するには学校印を押した申請書が必要になるそうです。なぜ出場が認められないのでしょうか。学校側に取材すると、簡単にはいかない事情が見えてきました。学校印を押せば、生徒の安全管理に責任を負うことになります。このため、部活動では、顧問が必ず引率します。長女の学校にはすでに30以上の部があり、校長は取材に「人手に余裕がなく、引率をつけるのは難しい」と説明しました。スポーツ庁が2018年に公表した高校の部活の実態調査によると、校長の悩みで最も多かったのが、「顧問の負担軽減」(78.4%)でした。部活が先生たちの負担になっているという意見があります。では、どうすればいいのでしょうか。答えが見えないまま半年以上たった今月中旬、母親から吉報が届きました。「出場が認められることになりました」。聞けば、学校側はその後、大会に出られる方法を検討し、保護者が引率することを条件に学校印を押すことを了承してくれたそうです。大会に出場できることになった高校1年の長女(大阪市内で)学校側が歩み寄ったのは、長女に一定の実力があることもポイントになりました。校長は「学校の都合で生徒が力を発揮する場を奪うのは望ましくない。互いにとっていい方法を考えた」と話します。長女に笑顔が戻りました。「1年遅れたけど、全国大会への出場を目指して頑張る」と意気込んでいます。今回のように、部活動をやりたくても、学校に希望の部がないというケースは少なくありません。先のスポーツ庁の調査では、未設置の部活を希望する生徒がいた場合、5割弱の学校が、部は作らないものの、大会への参加は認めていると回答しました。先生たちの「働き方改革」はもちろん大事ですが、ケース・バイ・ケースで知恵を絞り、子どもたちの思いにできる限り応えてもらいたいと思います。
【今回の担当は】羽尻拓史(はじり・ひろふみ) 中学時代は野球部。防災・減災の取材を10年以上続け、阪神大震災の連載も担当している。
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