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仲邑菫13歳 最年少タイトルを逃した“若さゆえの一手”
【2022年8月7日(日) 文春オンライン
 囲碁の中学生棋士、仲邑菫(なかむらすみれ)二段(13)が7月17日、女流5大タイトルの1つ、扇興杯女流最強戦の決勝に進出。史上最年少でのタイトル獲得目前で、まさかの逆転負けを喫してしまった。

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2連敗を喫して藤沢女流二冠に初勝利
 仲邑は囲碁棋士の信也九段を父に持ち、2019年に日本棋院の「英才特別採用」の対象者として史上最年少の10歳0カ月でプロ入りした。その後も順調に勝ち星を伸ばし、勝率は実に6割5分を超える。今回の大1番に勝てば、藤沢里菜女流二冠(23)の15歳9カ月という最年少タイトル獲得記録を大幅に塗り替えることになった。準決勝ではその藤沢と対局。タイトル初挑戦となった3カ月前の女流名人戦で、2連敗を喫して跳ね返された相手に初勝利を果たした。藤沢が振り返る。「女流名人戦の時は菫ちゃんが少し緊張していて普段の力が出なかったんだと思います。今回は序盤からずっと私の方が押されている意識がありました。改めて彼女の強さを感じました」

勝利目前で“安全勝ち”を目指してしまった仲邑
 決勝の牛栄子(にゅうえいこ)四段戦でも、仲邑は中盤から優位に立った。現場にいた観戦記者の内藤由起子氏が語る。「AIの評価値では、菫ちゃんの勝率予測は一時期95〜97%まで上がりました。実際、牛四段も終局後、『投げようかと思ったが、応援してくれる人の顔が浮かんでもう少し頑張ろうと思った』と負けを覚悟していた事を明かしています」。藤沢が解説する。「少し専門的になりますが、166手目で白(牛)がハネたところで黒(仲邑)が右となりをキレば、白が困っていた。その手を逃した事で混戦になりました」。 勝利目前で“安全勝ち”を目指してしまった仲邑。その後に打った8手で、AIの評価値はみるみる下がり、遂に逆転。控室の記者たちからはどよめきと悲鳴が上がったという。

仲邑は1分以上も言葉を発することができず…
 囲碁のナショナルチーム監督を務める高尾紳路(しんじ)九段が仲邑の心理を読み解く。「複数の選択肢がある中でどう打っても良さそうという局面は実は危ないんです。案の定、踏み込みを欠いて緩んでしまった。固くなって着手が不安定になってしまったんでしょう」。終局後、感想戦が始まったが、仲邑は1分以上も言葉を発することができず、涙ぐんでいるようにも見えた。記者の質問にも力なく応じ、聞き取れない記者から「もう一度お願いします」と促されるほどだった。ただ、将棋界を席巻する藤井聡太五冠(20)も、初タイトル獲得は17歳11カ月。彼女はまだ13歳だ。次のチャンスも目前に迫っている。25日には藤沢が持つ「女流本因坊」挑戦を懸けたトーナメントの準々決勝で、若手強豪の上野梨紗二段(16)と戦う。二人は大の仲良しで、仲邑は上野を「りさプー」と呼んで慕っているという。

タイトル獲得は時間の問題か
 藤沢が言う。「今年中にまた菫ちゃんと対局する事もあるかも知れませんね。彼女は若いし、メンタルの切り替えも上手。私が負けた準決勝の打ち上げの後、わざわざ私と上野愛咲美(あさみ)ちゃん(女流二冠・20)のところまでやって来て、『最近ハマってるんです。一緒にやりましょう』と詰め碁の携帯アプリを教えてくれて。3人で誰が一番早く詰ませられるか競争しました。盤を離れると可愛い妹のような存在で、対局中とは全然違う(笑)」。高尾九段もエールを送る。「今の彼女に足りないのは経験。今回はそれを得た勝負だったと思います。慌てる事はないです。しっかりと実力をつけてからタイトルを獲った方が、長く第1線で活躍できる。敗戦を糧にして、菫ちゃんがタイトルを獲得するのは時間の問題だと感じています」。プロ入り決定時の記者会見で仲邑はこう語っている。「夢は中学生のうちにタイトルを獲ること」。そのための「持ち時間」は十分に残っている。


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